ヒロの日記

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社会に戻ったから良くなる

久々の更新になってしまいました


総合リハビリテーション2009、6月号の巻頭言に

橋本圭司Dr.のコメントがありました。

良くなったら社会に戻るのではなく、
社会に戻ったから良くなる

というものです。

この人です


高次脳機能に関する書籍を多数執筆しています。



いやぁ、なかなか示唆に富むいい話でしたよ☆



 昨年、日本中が熱狂した北京パラリンピックで、私が主治医である競輪選手の石井雅史さんが、自転車競技1kmタイムトライアルで1分8秒771の世界新記録をマークして、日本人選手として同大会最初の金メダリストに輝いた。


 金メダル獲得の晩、私がテレビを見ていると見覚えのあるお顔を発見した。
 なんと、石井さんの奥様が特番に生出演しているではないか。
 そして中継では、石井選手自身の姿も。
 今大会は、事故後、始めて石井さんのお父様が試合を観戦に来てくださった、とのエピソードも聞かせていただいた。
 はしゃぎながら画面を見つめ、ただの1ファンと化していた私が、その時見たのは、車輪の両輪か前輪後輪のようにお互いを支えあい、認め合い、そして、まとまりのある1台の車として走り出した石井さんの家族の団結した姿である。


 石井さんは、2001年7月16日、自宅近辺の山中にてロードワーク中に乗用車と正面衝突し、びまん性軸索損傷を受傷した。
 後遺症として、
  左下肢の失調と
  易疲労性、
  発動性の低下、
  注意障害、
  記憶障害、
  遂行機能障害など
  の高次脳機能障害
が残存した。
 当初は、疲れやすく、目もうつろな状態で、少し前に言ったこともすぐ忘れ、あれをやれ、これをやれといったところで、何事も長続きしない状態であった。


 外来診療も手詰まりになりつつあったある日、石井さんが私に一言
 「他に何もしたくないけど、自転車だったら触ってもいいな…」
 とつぶやいた。
 消え入るような声だったため
 「何だって?」
 と問い返した。
 「だから自転車だったら今日からでも家で触ってみようかと思います」。
 この一言が、まさに彼の、そして彼の家族の進むべき長い道のスタートであった。
 その後の彼の目覚しい回復と数々の輝かしい戦歴は、誰もが知るところである。


 北京パラリンピックでの活躍の陰には、いくつかの高次脳機能障害による後遺症が陰を落としている。
 銀メダルに終わったロードタイムトライアルでは、彼は「残り4週のプラカード」を見落としている。
 もう1週あると思ったときにはレースは終了していた、とのことである。
 また、金メダルを獲得した1kmタイムトライアルの当日も、会場入りするために携帯必須である選手証をホテルに忘れるという失敗も経験したそうである。
 これらの症状は、注意障害や記憶障害といった高次脳機能障害の症状に合致する。
 神経心理学的検査を実施すると、彼は今でもそれなりに重い記憶障害として診断される。


 しかし、彼は確実によくなっている。その表情、振る舞い、他の当事者に及ぼす影響力、どれ一つ取ってみても彼は本当によくなった。
 しかし、神経心理学的検査の結果は、今でも彼を障害者として押しとどめようとする。


 高次脳機能障害に関わらず、患者は障害をすべて克服して完治して社会に戻りたがる。
 しかし多くの場合、その順番が逆に成っていることを多く経験する。
 石井さんは決して、高次脳機能障害や身体障害が完治して社会復帰したわけではない。
 しかし、一歩足を前に出し、ペダルを踏み始めてからの回復には目を見張るものがあった。


 そんな時、こう思う。
 患者は良くなったから社会に戻るのではなく、社会に戻ったから良くなるのではないだろうかと。


 先日、高次脳機能障害を抱えた別の若者から、銀座で古典を開くという知らせが届いた。
 彼は以前、お母様とともに私の書籍のイラストや拍子のデザインも担当してくれた才能あるアーティストである。
 さあ、祝おうではないか、また別の新しい希望ある美しい舟の船出を。


23:16 | 高次脳機能 | comments(7) | trackbacks(0) | pookmark
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コメント
 お久しぶりです。この言葉、すごく深いと思いました。
 私は老健にいましたが、デイケアの利用者様を見ていてそう感じることがありました。
 その利用者様は高次脳も著明でしたが自宅での生活を楽しんでいらっしゃいました。
 私は介護病棟にも関わっているので参考になりました。ありがとうございます。
2009/07/09 7:38 PM by 新米PT
突然すみません。
現在実習中の学生ですが、レポート作成にあたり検索していく中でこの記事を拝見させていただきました。
1つ質問をさせていただきたいと思いコメント致しました。もしよろしかったら返答お願いします。

『実用手とは』という記事に古川の定義とあるのですが、記載されている文章はそのままの定義でしょうか?
ブルンストローム・ステージが上肢・手指ともに正常とあるのですがこれは坤譽戰襪箸いΔ海箸任靴腓Δ?
いろいろ検索したのですがどうしてもわからず質問させていただきました。
ご迷惑でしたら申し訳ありません。
2009/07/11 6:05 PM by 実習生
>新米PTさん

退院前は常に見守りがないと転倒してしまうと思われていた方が、
退院後、1年後に見た姿は見事に歩行バランス改善して自立し、一度も転倒していない
という対象者を自分も経験しました

「社会に戻ったから良くなる」
という方向にもっていくのは容易なことではありませんが、頑張らなければいけないですね
2009/07/13 12:56 AM by MTひろ
>実習生さん

結論からいうとうろ覚えです

たまたま手にした文献に書いてあって、
それを声に出して読みながら携帯に録音して、
それを聞きながら記事を書きました。

よって、おそらく文章そのままの定義と思われます

文献は確か、
作業療法のとらえかた、か
考える作業療法
だったように思います

ブルンストロームステージが上肢・手指ともに正常とは困任△襪伐鮗瓩靴討い泙后
2009/07/13 1:01 AM by MTひろ
ご返事頂きありがとうございました。
文献名まで教えていただき、大変助かりました。
無事レポートが完成致しました。
迅速に対応して頂き、大変感謝しております。本当にありがとうございました。
2009/07/15 6:25 PM by 実習生
今日の記事、もの凄く、力になりました。ありがとう。
2009/10/29 7:14 AM by MAGNUM YODA
>MAGNUM YODAさん

 こちらこそ、コメントありがとうございました☆
2010/01/09 12:01 AM by MTひろ
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